20数年前、とある教員室に響いた先生のひと言

桜井一紀 | 2010年09月01日

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「コーチングを知っている人、手を挙げてもらえますか?」

先月、ある地方都市のロータリークラブ主宰で、教員向けのコーチング研修を行いました。参加者は約100名。この問いかけに対して、挙手した人は、約1割程度。

三重県などをはじめとして、いくつかの教育委員会が教員向けのコーチング研修を実施していますが、まだまだコーチングに触れたことのない教員の方もたくさんいらっしゃるようです。

実施した内容は、コーチングの概論とコーチングスキルのロールプレイ。今回は特に、「聞く」スキルに焦点を当てました。

「聞くことは、それ自体に意味がある」
「もし自分の話を聞かれていないと、話し手はどうなるのか」
「さらにその状態が繰り返されるとどうなるのか」

順を追って「聞く」ことの重要性を紹介しているとき、私の脳裏に20数年前のある出来事が沸き起こってきました。

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当時、私は非常勤講師として、中学校で社会科を教えていました。8年間で10校に勤務し、とても多くの先生と出会いました。

コミュニケーションをとるのがとても上手な先生。ちょっと苦手な先生。

こうした先生方との出会いを通じて、基本的に先生方は個性だけで指導をしている、という印象を受けました。

しかし、当時は教員向けのコミュニケーションやコーチングの研修はありませんでしたから、なんとか自分でやるしかない。しかも、教員は一般社会人に比べて仕事の独立性が高いので、教員間のコミュニケーションは少ない。業務上の伝達や相談はありますが、一般的な会社組織にあるような「部下を育てる」とか、「後輩の面倒をみる」というようなコミュニケーションは極端に少ないのです。

どんなに経験が浅くても、教壇に立った瞬間に一人前として扱われますし、競争によるスキルアップもないので、人によっては、独りよがり、自分の城に篭りがちになるようにも感じていました。


その出来事が起こった場面は、教員室。私の目の前に座っていた数学の先生が、生徒と話をしていました。経緯はよくわかりませんが、最後にその先生はこう言ったのです。

「生徒は君だけじゃないんだ。僕は忙しいんだよ」

私は耳を疑いました。

「お前なんか俺にとってはどうでもいいんだよ」

と、言われたのも同然です。教師として絶対言ってはいけない言葉です。そう言われた生徒はどう思ったでしょうか。生徒としては、ただ話を聞いてほしかった。たとえ忙しくても、

「いつでも相談に来いよ」

と言ってほしかったに違いないと思うのです。

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もし、自分の話が聞かれていないと、話し手には次のようなことが起こります。

・自分が今話している内容は、相手にとって興味がないのかもしれない
・自分の話はつまらないのかもしれない

そして、話が聞かれない状態が、繰り返されると、

・自分自身が大切に扱われていない、大事にされていないように感じる
・自分は価値のない人間なのかもしれない
・自分はだめな人間なのだ

自分の話が聞かれていないというだけで、このようにして自己否定が起こるわけです。

このような自己否定が起こったままの不安な状態ではいられないので、この不安を解消するために、過度に自分をアピールするようになったり、人の気を引くような行動をとったりする。つまり、自分の存在を認めてほしいという欲求が、ゆがんだ形で出てしまうことがあるのです。

逆に、十分に相手の話を「聞く」ことができれば、話し手にとってみれば、このような自己否定は解消され、さらにプラスアルファのやる気が付け加わるのではないでしょうか。

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「僕は忙しいんだよ」と言われた生徒が、どんな思いで先生のいる教員室に向かったのか想像してみてください。

自分の話を聞いてほしい。
自分のことを知ってほしい。
自分の思っていることを知ってほしい。
自分がここにいることを知ってほしい。
自分はここにいていいんだと思いたい。
自分の居場所を感じ、安心したい。

何もこの生徒だけではありません。誰だって、大切に扱われたい。大切じゃない人なんてこの世にいないのですから。

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コーチング研修修了後、参加されていた多くの教員の方は、「聞くことは、相手に対する最大の承認である」という、この考え方にいたく共鳴されていました。

私は、もっと多くの教員にコーチングを知ってほしいと思っています。教員がコーチングを知れば、子どもが変わる、未来が変わるのではないかと本気で思っているのです。

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